奥穂高岳 おくほだかだけ 3190m
こんな素晴らしい道があったなんて−パノラマコースの展望とお花畑
涸沢の素晴らしさはさんざん言い尽くされていますが、それを承知でも小屋のテラスに立ってぐるり見上げるその圧倒的な景観にはいつも感動してしまいます。
槍にも穂高にも登ったことがないという仲間がいて、それではと昨年は槍に登り、そして今年は穂高にということになりました。
初めての穂高はやっぱり定番コースで涸沢から無難に奥穂高岳往復としましたが、多少は私自身にも付録があってもいいかなと涸沢岳往復と帰路のパノラマ新道をつきあっていただきました。ところが、これが付録どころか奥穂の魅力も霞んでしまうくらいに魅力いっぱいで、涸沢岳からの景観にしろパノラマコースの展望とお花畑にしろ、付け足しのようにしか見られていないのが不思議なくらいです。
とりわけパノラマコースから見る涸沢カールや奥穂高岳から涸沢岳、北穂高岳へと連なる峰々の雄大な景観には圧倒されました。槍ヶ岳の意外な近さも実感でき、さらに横尾本谷の源流部に広がる手つかずのカールが涸沢カールに匹敵する姿で迫っています。また、奥又白沢への下山路に広がるお花畑も圧巻です。シシウド、トリカブトなど晩夏の花が咲き乱れ花に埋もれて歩くようでした。
仲間も奥穂高に登れたことを喜んでくれたし私も穂高の新しい魅力に触れることができて、まさに充実の3日間でした。
【日程】 2009年8月23日〜25日 【山域】 北アルプス 【天候】 快晴、晴 【地図】 1/25000穂高岳
昭文社槍ヶ岳・穂高岳
【アクセス】 松本ICより上高地方面へ。沢渡まで。上高地はマイカー規制。 【駐車地】 沢渡に市営、民営の駐車場多数。上高地へはシャトルバスかタクシーで。
4人いればタクシーがお得。【コース】 上高地−明神−徳沢−横尾−横尾本谷橋−本谷橋−涸沢(泊)−ザイテングラート−白出コル(穂高岳山荘)
−奥穂高岳−白出コル−涸沢岳往復−涸沢(泊)−パノラマコース−奥又白沢−新村橋−上高地
1日目約6.5時間 2日目約7.5時間 2日目約6.5時間 健脚向き
奥穂高岳山頂
奥穂高岳登路からの展望
手前から左涸沢岳、右北穂高岳、中央南岳、中岳、大喰岳、槍ヶ岳涸沢カール上部より
涸沢岳と涸沢槍
【メモ】 涸沢までのアルバイト:
いつもながら上高地から横尾までひたすら歩け歩け。この横尾までの無意味に思える3時間があればこそ涸沢が観光バスのツァーから守られているのだと思えばなんのこれしき。ふぅ〜。
横尾から吊り橋の横尾大橋を渡っていよいよ山道を歩くのですが、とりたてて見るべきものもあまりなく、屏風岩を見上げたり、時々樹間が切れて稜線が顔を見せる場所で一息入れたりしながら徐々に高度を上げていきます。
本谷橋で横尾沢を渡りいつしか本沢から別れて涸沢沿いの道となってやがて涸沢ヒュッテに到着です。涸沢ヒュッテと涸沢小屋の2軒の山小屋があります。 前回は涸沢小屋に泊まったので今回はヒュッテにしてみましたが、特にどちらがおすすめと言うほどのことはなく気分でどちらに泊まっても同じようです。
朝日を受けて(涸沢から奥穂高岳)
夜中、満天の星。久しぶりに天の川を見ました。でも、星が多すぎてどれがどの星座かかえって判りません。(^_^;
涸沢から白出のコル:
涸沢のカールの底は朝が遅く、まだ小屋のあたりは薄暗いのに稜線には朝日が輝いてしまいます。ですから薄暗いうちにヒュッテを出なくてはなりません。
ヒュッテからは雪田をベンガラのラインを頼りにたどって涸沢小屋からの道を併せてからややトラバース気味にガレを登ると申し訳程度の小尾根末端に取り付きます。ザイテングラートと呼ばれている小尾根です。ここからやや急な登りとなりますがカールを見おろし、またぐるり前穂から北穂に至るお椀の縁の峰々を見上げ、さらには振り返れば常念岳、蝶ヶ岳の優美な尾根を眺めながらの登りです。ですからあまり苦しさも感じられません。
意外に高山植物が多く、この夏の天候不順のせいらしくまだまだ花の盛りという感じでした。ハクサンイチゲ、トウヤクリンドウ、タカネツメクサ、カラマツソウ、イワオトギリ、ウサギギク、ヨツバシオガマ、ハクサンフウロなどが目立ちます。
このあたりから見上げる涸沢槍の姿はとりわけ印象的です。背後には間近に蝶ヶ岳、遠くは浅間山、蓼科山、南北八ヶ岳なども見通せます。また前穂北尾根が豪快にコブを重ねている姿も圧巻です。
前穂高岳と北尾根U峰、V峰
穂高岳山荘が見えてから一頑張りで稜線、白出のコル(しらだしのこる)です。山荘前が小広場になっていてベンチ、テーブルもありよい休憩場所です。
鎖、鉄梯子で一気に登頂:
山荘左手から岩場を一気に登ります。鎖、鉄梯子が現れますが特に難しいことはなく、注意して登れば危険はありません。ただし過去に転落死亡事故もありましたので年齢的にバランス感覚の衰えた私たちは一応慎重に通過しました。
すぐに傾斜も緩んであとは岩場や岩屑の道をひたすら登るだけ。小屋から見ると一登りに見えますがじつは頂上まではかなりの距離があります。背後の涸沢岳が自分の標高を知るよい目安になります。
前方に奇怪なジャンダルムが見えるとやがて頂上です。
ジャンダルムのてっぺんに登山者も見え、また次々にジャンダルム方向へ向かう登山者、あるいはジャンダルムからやってくる登山者も多く、かつてエキスパートの領域と言われていたのに隔世の感があります。
ジャンダルム
雲に隠れて全方向の展望は得られなかった奥穂高岳頂上:
先ほどまで青空がまぶしいくらいでしたのに頂上に着くか着かないかのところで周囲が雲に邪魔されてしまい展望も切れ切れとなってしまいました。
とはいえ、悪天候というわけではないのであっちが曇ればこっちが晴れるという按配で、槍ヶ岳方面が見えたと思うと次には双六岳、水晶岳方面、また少し待つと今度は常念岳、蝶ヶ岳と次々現れては隠れて忙しい山岳同定となりました。
涸沢岳:
コルまで戻ってから時間も体力もちょっぴり余裕でしたので向かいの涸沢岳を往復してきました。ほんの30分程度なのに足を延ばすハイカーも少なく静かな山頂でした。山頂から覗き込むと北穂高岳へ急峻な稜線が続いています。
ここもわずかな時間のうちに3組ほどの登山者たちが北穂高方向から登ってきました。今朝南岳を発ってきたという若者は疲れた様子もなく山頂で余韻を楽しんでいるようでした。
奥穂高岳とはまた趣の異なる豪快な景観を楽しめますからぜひ足を延ばしてほしいピークです。
涸沢岳から北穂高岳
涸沢からの下山はパノラマコース:
翌朝は少し早立ちしてパノラマコースを歩いてみました。
ヒュッテから下るとすぐに分岐となり横尾への道を分け、いきなり崩落気味のトラバースとなります。要所には固定ザイルがありますし、木の根なども頼りになりますので危険というほどではありません。
所々展望の開ける箇所があってまさしくパノラマコースです。涸沢を見降ろすその景観は圧巻です。また前方視界いっぱいにのしかかるように聳える北穂高岳も涸沢の底から見る姿とはまったく異なってその大きさに圧倒されます。さらに槍ヶ岳が意外な近さで、小屋まで手に取るくらいに見えます。そして初めて眼にする横尾本谷源頭のカール、たぶん手つかずの自然であろうことはここから見上げるだけで想像できます。私たちには行くことはかないませんがどんなにか素晴らしい別天地でしょう。
やがて前穂北尾根と屏風ノ頭との鞍部に出てここで初めて梓川を見おろすことができます。ここからさらに登り返して屏風ノ耳までは行けるらしく展望も素晴らしいと聞いていますが時間も限られていましたのでそのまま下りにかかりました。
パノラマコースから北穂高岳
パノラマコースから涸沢と奥穂高岳
パノラマコースから槍ヶ岳
穂高随一のお花畑:
電光を切って急な斜面を下りますがここはあふれるばかりの花、花、花。夏も終わりというのにこれほどの花が咲き乱れているとは驚きです。シシウド、キオン、ヨツバヒヨドリ、トリカブト、ミヤマアキノキリンソウ、オニシモツケ、カラマツソウなど晩夏の花が色とりどりでした。私たち花好き仲間にとっては通せんぼも同然でカメラを構えてなかなか足が進みません。
穂高といえば岩の山を思い浮かべてしまいますが、ここでは穂高が花の山でもあったのかと認識を新たにします。
このお花畑の斜面は屏風ノ頭から落ちる早稲田尾根と前穂北尾根から落ちる慶応尾根との間に広がる斜面ですが、その両尾根の名前はかつて前穂北尾根の初踏破を競ったであろう時代をあれこれ想像させます。
パノラマコースお花畑
やがてお花畑も尽きると樹林帯に入り慶応尾根を越えて急下降の道になり一気に高度を落とします。
最後まで迫力ある景観が続く:
前方が開けると奥又白沢に降り立ちます。真っ白な大石が折り重なった涸れ沢です。見上げると豪快な前穂東壁が頭上にのしかかっています。なんという厳しい尾根でしょう。エキスパートたちはこの岩壁を目の前にするとなんとしても登ってみたいと思うのでしょうね。(奥又白沢を下った梓川手前には小説氷壁のモデルとなったナイロンザイル事件の若山五朗の碑があります。)
本流は涸れ沢ですがその先にもう一筋小沢があってこちらは流れがあり汗を拭って休憩するには良いポイントです。
この奥又白沢に降り立った地点はペンキマークが2通りあって一方は赤ペンキが沢を越えて山道となっていますがもう一方は青ペンキで沢を下るようになっています。しかし、私たちははじめ青ペンキをたどり始めたたもののとても歩きにくくこのまま行けるとは思えず改めて赤ペンキに従いました。その先で道が合流していることには気付かず青ペンキが何を意味するのか判らないままです。
奥又白沢から前穂東壁
またお約束の梓川沿いの難行:
堰堤で幅広の道となりダラダラと下っていくと梓川右岸の車道に出ます。工事の車が何台も駐車していましたが私たちは歩くしかありません。新村橋(しんむらばし)の吊り橋を渡りあとは徳沢、明神と繋いで上高地までの難行苦行。
上高地からタクシーで沢渡(さわんど)の駐車場まで戻り近くの温泉で汗を流してから帰路につきました。【便利帳】 トイレ:各小屋(涸沢より上は有料です。)