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大津 おおつ

アカヤシオをまとった密やかな岩峰群をつないで花の尾根を豪快に縦走

大津は人気の烏帽子岳、三ツ岩岳に隠れてほとんどその名は知られていませんが、アカヤシオの時期に一度でも訪れたならその魅力のとりことなること請け合いです。
かつて毎年のように大津に通い詰めたことがありましたが、大仁田川でダム工事が始まったため通行できなくなって、長らく足が遠のいていました。完成からすでに数年を経ましたが、やっと再訪がかないました。
そもそも大津に登るだけでも岩稜の通過やルートファインディングなど多少困難をともないますが、今回は足の揃った仲間を得たので大仁田川をかなり奥まで遡ってから一気に尾根まで突き上げ、とって返すように大津を目指して岩と花の尾根を辿る未知のロングコースを歩くことができました。
新緑の沢筋、花に包まれた尾根、豪快な岩峰、まさに充実の山行でした。
それにしても、大津、山とか岳とか付かず不思議な名前ですね。一山名ではなくこのあたり一帯の呼び名でしょうか。

一般ハイキングコースではありません。
【日程】 2008年4月29日
【山域】 西上州
【地図】 1/25000十石峠
【アクセス】 下仁田より県道93号で南牧村へ。大日向で左折して大仁田を過ぎ、スーパー林道にぶつかったら左折して大仁田ダムまで。
ダムからさらに進んでから右折して回り込み、ダム上まで走行することも可能です。ただし登山者用駐車場はありません。
【駐車地】
ダム下に駐車場。十数台。ほとんどが三ツ岩岳登山者の車です。
ダム上にも数台駐車可。
(写真は駐車場から見上げる大仁田ダムと大津)
【コース】 大仁田ダム−大仁田川−取り付き点−1273m峰前衛−1053m峰−大津−1053m峰支尾根−下山点出合
−大仁田ダム
 (全行程7時間程度 ベテラン向き、登山道なし)

     


         大津

               新緑の大仁田川源流域

       アカヤシオ

【メモ】 大仁田ダム:
ヒカゲツツジ

ダム下の駐車場からの道がわかりにくくうろうろしてしまいましたが、トイレの脇から丸太階段があってダム上まで一登りです。ダム上まで登ってみたら車道がぐるっと迂回して登ってきていました。駐車場はないもののダム湖周辺やダム奥に数台は停められそうです。ただ、ダム下の駐車場から登ってきてもさほどのことはないのでしっかりした駐車場に停めた方が無難かも知れません。
ダムは大きいもののダム湖の面積はさほどでもなくその影響が顕著に上流域まで及んでいるようなこともないようです。ダム湖のすぐ上流は昔のままの姿でほっとしました。
車道が尽きると両岸は切り立った岩壁となりたくさんのヒカゲツツジとミツバツツジがちょうど満開でした。

新緑の大仁田川:
大仁田川は小滝を連ねた美しく優しい渓相の谷です。沢沿いの道はかつては信州への峠道で馬も通ったということです。確かに石積みや石仏などが半ば埋もれて残っていてそこここに古道の雰囲気を残しています。しかし沢沿いの道ですから半ば道形は消えていて、右岸左岸と飛び石で渡りながら新緑の中を徐々に高度を上げていきます。
途中の小さなケルンのある窪の出合いとさらに先の中州状になった小平地対岸の窪が尾根に突き上げるルートとして使われているようですが、小平地から先も右岸にか細い道が続いていましたのでさらに沢を詰めることにしました。(中州状の小平地は実際には中州ではなく、右岸に広がっている平地です。左岸、つまり川上に向かって右に枝沢の窪がありますのでそこから尾根に突き上げるのが判りやすいルートです。)
道はやがて消え枝沢に阻まれたのでやむなく徒渉すると今度は左岸にはっきりした古道の跡が現れました。
稜線に突き上げる

ほどなく2,3段のかなり大きな滝が現れ、途中出会った釣り人の話ではここが沢を詰める限界だそうで、私たちもここから尾根に突き上げることにしました。ただ、沢の限界というのは釣り人の感覚としてということらしく、道そのものは滝を高巻いてさらに続いている様でした。このルートで信州に抜けるワンデルングも楽しいかも知れません。
ここまでの沢沿いの道の楽しさといったら、優しい沢音とうるさいほどの野鳥の声、目にしみる新緑と花、花、花、春の山の魅力いっぱいです。鹿に出会ったり、珍しい花に出会ったり、思わずかなり沢奥まで踏み込んでしまいました。

鹿道をつないで急斜面を稜線に突き上げる:
藪が薄く快適に登れそうな枝尾根を見計らって一気に稜線を目指しました。とてつもない急登ですが、ときどき息を整えながら立ち止まるとミズナラ、ブナ、ホオノキなど新緑がまぶしく疲れも吹き飛んでしまいます。
落ち葉に埋もれた林床にはスミレ、ヒトリシズカなど春の花がそこかしこに顔を見せていました。自然のヤマシャクヤクにもはじめてお目にかかることができました。
やがて満開間近のミツバツツジを見ると稜線に飛び出します。
現在地がつかめませんが左手に高みがありましたので1273m峰の東側の稜線と判断しました。ブナ、ミズナラの大木が多く低層にはミツバツツジやアカヤシオが咲く素晴らしい風光です。しばらく1273m峰の方向へ辿りましたが時間を考えて前衛小ピークで休憩してここまでとしました。

夢のような稜線:
アカヤシオをまとった岩峰

ここから大津まで続く痩せた稜線は満開のアカヤシオに包まれてスリリングな岩峰を通過したり西上州の怪異な岩峰を展望したりと夢のようなコースです。
藪歩きの登山者がつけたらしいテープが2,3箇所あったものの他にほとんど人が入っている形跡はなくアカヤシオ独り占めという感じです。両側が切れ落ちた痩せ尾根ですが、灌木のおかげでそれほど高度感、恐怖感はありません。
途中の1103m峰は通過にちょっと肝を冷やす岩峰です。もっとも西上州で一般ルートを越えたらこの程度は覚悟しなければならないかもしれません。
1103m峰を越えて鞍部に降り立った所が大仁田川の中州から突き上げるルートで稜線に達した地点で、それを示すテープもあります。ここからはテープのマーカーも見られるようになり、また踏み跡もしっかりしています。

大津岩峰群:
1/25000地形図の表記では大津は特定の頂上を示してはいないように見えます。山名標識は東端の岩塔上に設置されていますが、地図の表記はむしろ1053m峰付近にそれとなく「大津」の文字が配置されています。登ってみると確かに顕著な高みがあるというより一帯が岩峰群となっています。
1053m峰、1053m峰の北側の大きな岩峰、さらに大津山名標識のある岩塔(大津とします)、そして大津手前稜線脇の小岩塔の4峰があり、どれもアカヤシオのピンクの衣装を纏ってえもいわれぬ景観を見せています。
まず稜線脇の小岩塔に登ってみました。アカヤシオに包まれた頂上からはこれまたアカヤシオを纏った1053m峰北側岩峰を眼前に見て、さらに振り返れば大津もアカヤシオに包まれています。また足下にはヒカゲツツジも咲き始めのクリーム色の花を見せていました。頂上は狭く足下は切れ落ちて、高所が苦手な私にはあまり落ちついて休める場所ではありませんが、時計を見てここで昼食としました。
いよいよ大津の登りにかかりましたが、はて、どこを登ればいいのかと不安になるような岩塔です。ちょっと左手に進むとトラロープが固定してありますのでここから取り付きます。トラロープは古く変質していて体重をかけるには不安で、木の根、岩角などを頼りに登るしかありません。
待望の頂上に達すると大展望が待っていました。眼下には大仁田ダム、隣には三ツ岩岳、さらに烏帽子岳の鋭鋒とその後ろ盾のようなマル、ともにアカヤシオのピンクを山肌に纏っていました。やや中景に大屋山、毛無岩、荒船山、立岩、ミドリ岩、大岩、ククリ岩など西上州の名だたる岩峰が一望です。残念ながら穏やかすぎる陽気のせいで全体がぼおっと霞んでくっきりした遠望は得られませんでした。
大津頂上からさらに先にはっきりした踏み跡が下っています。三ツ岩岳方面への道なのか、ちょっと興味がわきしばらく辿ってみましたがいずれにしても時間的にも無理なので後日の宿題にして戻りました。
しばし展望と足下のアカヤシオを楽しんでから下山にかかりましたが、最後の下降にはかなり慎重さが必要でした。

   三ツ岩岳

     烏帽子岳 マル

最短下山コース:
下山は最短コースをとりました。1053m峰手前でビニルテープのマーカーの地点から1053m峰を巻いて南東に延びる枝尾根を下山コースにとりました。途中まではテープを見ましたがやがてそれも失い植林地の中を消えかけた作業道をつないで一気に沢まで駆け下りました。
大仁田川の出合いにペンキマークと小さなケルンがありますので、ここから登れば最短登山コースとなります。もっとも稜線まで植林地でまったく面白みはなく、ここから登ったのでは大津に登る価値はないかも知れません。
大仁田 花に包まれた野仏