目次

  社山(南稜・馬鹿尾根) しゃざん 1826.6m

40年来の念願を果たして長大な笹尾根を登る
山に登り始めた頃、一冊のガイドブックを手にしましたが、(私事になりますが)その一冊の本が私のその後の山とのつきあい方の大きな指針となりました。「渡良瀬源流の山々」(小野尚俊著)というそのガイドブックは全編格調高い美文調で貫かれていて、当時の交通事情でははるかな山であった足尾の山々に思いを巡らすよすがとなりました。
社山そのものもそうですが、さらに社山から足尾の谷にのびる長大な尾根を知ったのもその「渡良瀬源流の山々」で、いつかは延々と続くその尾根を歩いてみたいものだと念願したものです。
写真を見ると当時は全く樹木はなく草付きの尾根と剥き出しの斜面が続いているばかりで、現在でさえ荒れた印象が強い足尾の山ですが写真で見比べると遅々として緑にならない様に感じる足尾の山も実際はゆっくりですが確実に緑を回復していることが判ります。
高山には時期が遅く、かといって低山では暑くて堪らない中途半端な初秋の休日を利用して、こんな時期にはうってつけかと思い念願の社山南稜を歩いてきました。最初の計画では中禅寺湖岸の立木観音から入って足尾に抜けるつもりでしたが、行かないうちから気分が高揚してしまってより困難な足尾側からスタートして登ってみようという気になってしまい、結果、普段トレーニングもしていない軟弱な私にはちょっと足に余るコースだったようで夕刻の足尾に戻ったときにはヘロヘロでした。(^_^;
なお、最近はこの尾根を社山南尾根や社山南稜と呼んでいるようですが、「渡良瀬源流の山々」では馬鹿尾根という呼称を採っています。

(一般ハイキングコースではありません。)
【日程】 2008年9月23日
【山域】 足尾
【天候】 晴れ
【地図】 1/25000中禅寺湖
【アクセス】 国道122号足尾バイパスの田元交差点を群馬方面からなら直進、日光方面からなら右折。すぐにわたらせ溪谷鉄道のガードをくぐり、間藤、赤倉を経由して三川ダム脇の銅親水公園駐車場まで。
【駐車地】 20台ほど
【コース】 銅親水公園駐車場 - ゲート −久蔵沢分岐 - ヘアピンカーブ入山点 - 雨量局 - 1182三角点 - 1568ピーク
- 社山 - 阿世潟峠 - 久蔵沢分岐 − 銅親水公園駐車場
実行程約8時間

 社山頂上

社山から馬鹿尾根を見おろす
              男体山、中禅寺湖に浮かぶ上野島

【メモ】 できれば尾根末端から:
8時に足尾堰堤(今は銅親水公園として整備されています。)の駐車場に着いて、さっそく足ごしらえを整えて出発しました。眼前には中倉山が大きく、目指す社山方面も高々と見上げることができます。
ススキの尾根から中倉山、備前楯山、小丸山
駐車場先でゲートをくぐり、松木沢方面への道を見送ってしばらく久蔵沢沿いの工事用道路をたどり、作業小屋が見えたところで左の安蘇沢沿いの作業道へ入ります。このあたりが尾根の末端ですが、作業道のために断崖となっていてとても登れません。頃合いの入山点を探しながら作業道を登って行ったらヘアピンカーブの2度目の折り返し点(カーブミラーの箇所)で簡単に取り付くことができました。
しかし、簡単なのは入山点だけで、すぐにとんでもない急斜面となって草の根頼りで身体を持ち上げるような有り様でした。岩場もありこれが脆い岩で頼りにならずけっこう危険でもあります。
やっとススキやウィーピングラブグラスの繁茂する草地帯の緩斜面に登り着くと少し展望も開けて一息入れることができました。

松林の尾根:
しばらくはススキやウィーピングラブグラスをかき分けながら高度を稼ぎます。(この先、下草は徐々にミヤコザサに入れ替わっていきますが、このススキとウィーピングラブグラスのやっかいものは消えてはまた現れて1182m三角点あたりまで顔を出します。春ならば草丈も低いでしょうからもっと楽に歩けるかも知れません。)
この尾根の下部は植林された松林が続きますが、ここの松林は低山のそれとは違って松枯れにやられることなく元気いっぱいです。土壌が貧弱なこの尾根が松には好環境なのでしょうか。松が繁茂している場所は下草も短く歩くには好都合です。
右手から上がってくる踏み跡を合わせると久蔵雨量局を示す案内板があり、その先にコンクリート製の建物が現れます。これが久蔵雨量局、たぶん雨量観測所のようです。
ダケカンバとミヤコザサ
徐々に高度を上げ一旦急斜面をこなすと平坦尾根となり1182.3m三角点です。ちょっと平坦地の端にあり、ススキに埋もれているので踏み跡のままに進むと通り過ぎてしまいそうです。
この三角点周辺は気分のよい平坦尾根で鹿のヌタ場などもありやっと山の雰囲気が感じられてきます。見上げれば社山も頂稜部が顔を出しています。
ここから先は大きく展望も広がりいよいよ核心部に入っていきます。振り返れば南に中倉山が大きく、備前楯山、小法師尾根、小丸山なども視野に入ってきます。

ミヤコザサの尾根:
松林からダケカンバ、ミズナラに替わるとともに下草がミヤコザサになり、縦横に走る鹿道と消えたり現れたりしながら続く昔からの道跡とをつないでどうにかルートが繋がっていきます。
途中、石積みの平地に小屋の残存物が散乱していました。またそのすぐ先には形を半ば保ったまま倒壊している小屋掛けの名残がありました。前述の「渡良瀬源流の山々」に掲載されている写真には尾根上に2棟の植生作業小屋がはっきり写っていますが、たぶんこれかと思われます。その写真ではまるきりのハゲ山に建つ小屋でしたが今は深い樹林の中に消えようとしているわけで、植生の苦闘のたまものを眼前にするとやはり感慨深いものがあります。
徐々に樹林も深くなりそれとともにミヤコザサの丈も大きくなって、踏み跡が消えた場所では歩行もけっこう疲労に繋がります。
1568標高点ピークから社山
その深いミヤコザサの尾根で時たま幅1.5mほどの凹地の溝を見ることがあります。いまはすっかりミヤコザサに埋もれていますが、かつて阿世潟峠から社山を巻いてこの尾根通しに作られた社山歩道という道があったと言うことですからたぶんその痕跡ではないでしょうか。

馬鹿尾根核心部:
しばらくダケカンバやミズナラの平坦尾根をたどってからやや急な斜面を登り切ると1568標高点ピークとなります。
よく展望の開けた草付きのピークで、前方に高々と社山の頂上が見えて、まだあんなに登るのかと少々うんざりします。左手には大平山から社山へ続く気持ちよさそうななだらかな笹尾根、振り返れば袈裟丸の連山、中倉尾根、庚申山、そして高々と皇海山が連なっています。足下に安蘇沢の源頭部が滝を連ねて一気に流れ落ちている様は豪快です。
ここまで尾根末端の危なっかしい斜面以外はずっと急登ながら下草の繁る優しい尾根が続いていたのですが、このピークのみは崩壊が足下まで達して荒々しい足尾の山の顔を覗かせています。左足元の崩壊地に気をつけながら一旦ピークから下り急な登り返しをこなすとあとは登れ登れの社山の山体への取り付きとなります。ひたすら登るばかりですが、右手の半月山を目安に自分の高度を計りながら展望を楽しめますし、シロヤシオの小群落や大岩の重なるちょっとした岩場などもあって苦しい登りというわけではありません。
効率のよい登りなのでぐんぐん頂上が近づいてきます。しかしよくぞ馬鹿尾根とは言ったもので、最後の登りではさすがに登っては休んで喘ぐの繰り返しとなりました。こんな尾根を登るのは馬鹿だけだよね、と半ばやけくそで仲間と笑ってしまいました。
見上げる頂上にはたぶん日光から登ってきたらしいハイカーの姿も見えます。

社山頂上:
社山から白根山、錫ヶ岳と笹の南岸尾根

登り着いたのは頂上南西の草地で、たどってきた馬鹿尾根の全容が見下ろせます。いやぁ、よく登ったなぁ。(^_^)
太平山、黒檜岳からこの社山まで続く中禅寺湖南岸尾根の笹原が次の小冒険を誘っているかのようです。
ちょっと北側の樹林を分けると日光白根、錫ヶ岳、太郎山、戦場ヶ原など奥日光が一望です。すでに戦場ヶ原はきつね色に変わっていました。
三角点のある頂上は少し尾根を進んだ先で、樹林に囲まれています。

阿世潟峠道:
頂上から一気に阿世潟峠目指して下降しますが、途中右に昔の社山歩道の分岐がうっすらとした踏み跡として残っていました。かつては尾根通しに社山頂上を踏むことなくこの巻き道から馬鹿尾根を下ったようです。
この社山の下りからは中禅寺湖を前景にして男体山が圧倒的な姿を見せてくれます。やはりこの姿は日光の象徴です。湖に遊ぶ観光船やプレジャーボートがオモチャのようです。上野島、八丁出島が湖の景観に変化をつけています。紅葉までにはあと半月ほどでしょうか。
古道の石垣
阿世潟峠は中禅寺湖岸阿世潟へ下る道、そのまま尾根通しに半月峠を経て半月山へ登る道、そしてこれから行く足尾へ下る道の分岐十字路となっています。静かですが明るい峠です。
峠には足尾を指し示す標識だけがありませんが道はしっかりしています。
峠からしばらくは山道ですが所々昔使われた広い古道が残っていて現在の山道と平行したり交わったりしています。いくつか昔の石組みも残っていることからかつてはかなりの往来があったことがわかります。
しかし今はここを歩くハイカーもほとんどいないらしく道形はしっかりしているものの石が散乱して足跡もほんのわずかです。ですからあまり歩きやすい道とは言えません。この道が半月峠越えとともにポピュラーなハイキングコースだった時代もあったことを思うと隔世の感があります。
ヤマブドウがたくさん実をつけていたので一粒口に入れてみましたがまだ酸っぱくて食べ頃となるには早すぎたようです。そのときすぐ先に猿の群れがこちらを覗いているのに気付きましたが、きっとこのヤマブドウを食べに来ていた群れかも知れません。ブドウの房は半分ほどに減っていました。
群れの中にかわいい赤ちゃん猿がいて懸命に群れの後について歩いていました。特に攻撃的な仕草もしない群れでしたがそっとブドウのごちそうを明け渡して離れました。
堰堤が現れその下で徒渉をして左岸の車道に上がります。車道といっても全く用をなしていない道で斜面から大岩が
秋の実り
崩れて押し出していて歩くのさえたいへんです。所々崩壊したり岩に埋もれたりしているその車道跡をたどりましたが右岸に渡る箇所では橋が崩壊してその先の車道が全く消えていました。徒渉のたびにルートを探さなければならず今や初心者向きの簡単な峠越えハイキングコースとは言えないようです。

覚悟はしていたもののうんざりする林道歩き:
堰堤工事の現場が見えると後はひたすら林道を歩くのみ。
この沢筋の斜面は優しかった馬鹿尾根の尾根筋とはうって変わっていまだ崩壊を繰り返す激しい沢であることを痛感する景観です。斜面を崩れ落ちる岩屑を見上げると、いったいこれを防げるものかと気の遠くなるような砂防工事ですが、工事が終わって年月が経った沢を見ると同じような工法の砂防施設が見えないほどに木々が茂っていて決して無駄な工事とばかりはいえないことがわかります。しかしそれにしても膨大な費用がかかる工事だと素人目にもわかります。
途中、右斜面に登る踏み跡があり久蔵雨量局を示す見覚えのある案内標が立っていました。登りの尾根上にあった雨量局に達する道でしょう。ここから登れば尾根末端の激しい登りをカットできますし、たぶん時間的にも短縮できるはずで、社山からさらに行程を延ばす場合にはこちらのルートをとるべきでしょう。登りでは三川堰堤から久蔵沢左岸の作業道路をたどってきて最初の橋を渡って右岸に移った先になります。
やっと見覚えのある安蘇沢分岐にたどり着き最後の元気を使い果たして駐車場に戻ったときにはすでに午後5時を回って夕刻の寂しい景観に変わっていました。
それにしてもトレーニング不足のダレた身体には目いっぱいのコースでしたが、40年来の念願が果たせて充実の一日でした。
秋の空 日光白根山
【便利帳】 トイレ:親水公園手前の植樹駐車場