目次
皇海山 すかいざん 2143.6m

オオヒシラビソに包まれた足尾山塊の盟主

2008-8-17
足尾山塊の最奥に位置する皇海山は山塊の中で唯一2000mを越す標高を誇り足尾の盟主の名に恥じない風格があります。その特徴ある姿は関東平野からもよく眺めることができます。
じつは私事になりますが山とんぼの初登山が皇海山でした。足尾線(現在はわたらせ溪谷鉄道)原向駅から往復3日間を要したその奥深さにびっくりしたものです。普段遊び回っている里山しか知らなかったその時の高校1年生は、それ以来ずっと飽きもせずにあちこち歩いているというわけです。
近年群馬側からの登山道が整備されて、長丁場の足尾側からの登山道は敬遠される傾向にありますが、やはりその奥深さは庚申山、鋸山とつないで延々と縦走の果てにたどり着くことで実感できると思います。
と言いつつも、体力勝負の山登りはもうきついので、今回は安直に群馬側の不動沢から往復してきました。(ダメじゃん(^_^; )

2014-10-25
紅葉の時期に再訪しました。好天のおかげで大展望を満喫しました。もちろん紅葉もドンピシャ。

重要なお知らせ:R3年3月の沼田市のサイトによる情報です。栗原川林道は追貝側、根利側とも通行できません。従って本ページのルートでの入山は不可能となっています。

関連ページ
鋸山 http://www.kimurass.co.jp/asionokogiri.htm
【日程】 2008年8月17日(夏登山はこちら
2014年10月25日(紅葉はこちら
【山域】 足尾
【地図】 1/25000皇海山
【アクセス】
渡良瀬川と片品川を結ぶ県道沼田大間々線の中間にある根利集落が長い林道のスタート点となります。
要所に皇海山を示す案内板がありますので間違うこともないと思いますが、なにせダートの21kmにも及ぶ長距離走行を強いられますから細心の注意を払って走行したいものです。くれぐれもスピードは控えなければなりません。
なお、国道120号追貝(吹割の滝)からも林道が入ってきています。むしろ追貝側の方が一般的かも知れません。ただし道路状況は根利からの林道の方がよいようです。追貝側の林道を走って路上の岩角で2度パンクして予備タイヤがなく立ち往生した話も聞いています。
どちらから入っても1時間以上を要して皇海橋脇の駐車地まで。
(2014年夏期は追貝側からは通行止めでしたが2014-10-25現在通行可能です。ただしほぼ1シーズン閉鎖されていたため、そちら側から来たハイカーの話ではかなり道路状況は悪いようです。)
【駐車地】
皇海橋を挟んで根利側と追貝側に駐車場。
写真左:根利側駐車場、右:追貝側駐車場。それぞれ十数台ほど。
【コース】 駐車地−林道−登山口−不動沢−不動沢コル−皇海山(往復)
全行程5時間程度 一般向き (ただし頂上先の展望地については危険につきベテラン向きです。)

     


                    頂上

不動沢(徒渉点付近)

 オオシラビソ樹林

【メモ】 2008-8-17
荒れた長い林道:
不動沢上部

前夜は被害も出るほどの豪雨で果たして登路の不動沢を歩くことができるのか、それどころか長い林道を登山口まで通過できるのか、不安とともに家を出ました。
渡良瀬川沿いの国道122号から水沼の手前下田沢で分かれ赤城裏を抜ける県道沼田大間々線はかつて難路でしたがトンネルや橋が整備されて快適な道となりました。
花見が原森林公園への道を分け峠を越えるとほどなく根利集落です。県道から一段下がった根利川沿いに根利集落はあります。
すぐに根利川を渡りに山畑の中の道を上っていくとそのまま林道となります。根利集落内で新地川と倉見川とが合流して根利川となるのですが、皇海山への林道はその倉見川に沿っています。
前半は(水流が被ったりしてはいたものの)走りやすい路面ですが、徐々に落石が多くなり、やはり前夜の大雨の影響がかなりあったようです。路面に落ちた大石をよけながらけっこううまい具合に走れましたが、あとから先行のハイカーと話したところその方は何度か降車して大石を片付けながら来たとのこと、先陣を切らなかったために楽をしました。(^_^)
林道はほぼ等高線に沿っていて、たいした登りも下りもないまま延々21km走らされてやっと登山口の皇海橋に着きます。
橋の手前が広く駐車地となっています。

不動沢沿いの登路:
駐車地脇の林道を少し上ると左手に登山口を見ます。林道はチェンで通行止めになっていますから間違うことはないはずです。
不動沢のコル
道はよく踏まれています。かつて地形図を頼りに登路を探ってウロウロしながら登ったのがウソのようです。
一旦不動沢まで下って本流を渡るのですが水量は多いものの足を濡らすこともなく飛び石で渡ることができました。前夜の雨は局地的な集中豪雨だったためかこのあたりは逸れてそれほどでもなかったようです。
沢を渡ると沢からやや離れ右岸のカラマツ植林地の笹原をたどるようになります。しばらく坦々とした登山道が続きますがやがて道は右の沢に下りそれからは沢の中や沢の縁を歩きます。この沢に下りる地点が少々わかりにくく注意が必要かも知れません。
沢の道は全く足を濡らすことはなく、また2回ほど二股がありますが案内板があって昔のように迷うこともありません。
徐々に傾斜がきつくなって沢から離れるとコメツガやダケカンバが現れてやがてひょっこり稜線の鞍部に飛び出します。不動沢のコルと呼ばれていますがむしろなだらかな鞍部という感じです。これまでの群馬側の樹林が若樹で深山の雰囲気は感じられなかったのに比べて栃木側の樹林は巨樹が鬱蒼として中層下層の植物も多く山深さを感じます。
ガスが晴れて頭上に鋸山の鋭峰が顔を見せましたが、それは一瞬のことでまたガスに包まれそのまま顔を出すことはありませんでした。

樹林帯の急登:
不動沢のコルから皇海山へは左へ稜線を登ります。コメツガの深い樹林で下草には風知草が揺れてなかなかの風情です。壮年期の樹林の中には巨樹も混じりまた幼樹も育って順調に自然の更新ができているのが見て取れます。不動沢の登路で見てきたカラマツ植林地の景観とは風格が違います。
やがてオオシラビソが優勢になっていよいよ深山の雰囲気が濃くなると岩場の急登が待っています。この急登をこなすと傾斜が緩んで山頂の一角、青銅剣が現れます。
青銅剣
昔最初にこの青銅剣を見たときは空にすっくと立っていた記憶がありますが、樹林が育ったせいか土台から傾いてしまったせいかなんだか昔の凛とした勢いが感じられません。
青銅剣からほどなく待望の頂上です。

ときどき静寂の頂上:
頂上にはすでに先客のハイカーが休んでいましたが入れ替わるように早々に下山していきました。
私は頂上先のナギのてっぺんからの展望を期待して霧の晴れるのを待ちながら皇海山の静寂をゆっくり楽しみました。霧に包まれた深い樹林、ときどき間近で鳴くホシガラス、山深さがひしひしと心に沁みます。
しかし長く静寂に身を置くことはできません。来るわ、来るわ、次から次へとハイカーがやってきてはシャッターを切って慌ただしく下山していきます。どうやらみなさん百名山ハンターらしく、中には、なんでこんな山を百名山に選んだんだろうね、などとおっしゃる始末。もっともこの山の良さはしばらく頂上に身を置かないと感じることはできないですから次から次へとピークに足跡を残すのが目的では無理からぬことかもしれません。

篠突く雨の恐怖:
しばらく頂上で時を過ごしていましたが、最初ポツリポツリだった雨があがるどころかだんだん激しくなってきてやむなく下山にかかりました。
不動沢のコルから不動沢に下り始める頃にはいよいよ雨は激しくなり枝沢からは濁った水流が落ちてきます。沢水が濁りだしたら要注意です。最後に不動沢本流の徒渉があるのでこの水流が一気に集まったらかなり危険な状況も考えなければなりません。とにかくこの水流が徒渉点に達するまでには下山しなくては。
ほとんど駆けるようにして徒渉点に着いたときにはすでに本流は増水していて、登りでは飛び石で軽く渡れたのに水流の様子が変わって徒渉点がよく判らなくなっていました。ウロウロ探したあげく対岸のテープを発見して徒渉点を見極めてから手頃な枯れ枝を拾ってストック代わりにしました。普段ストックなど土壌や道脇の植物を荒らすだけだと思って使うことなどありませんが、今回ばかりは2本足だけでは水流に足を取られてしまいそうです。靴が流れの中に没してしまいましたがなんとか対岸に渡ってやっと登山口に戻りました。やれやれです。
まだ10人以上のグループなど2,3パーティーは山中に残っていたのでどうしたろうかと心配でしたが、下山後しばらくして雨もおさまりました。
なお、登りで沢に降り立つ地点が迷いやすかったですが、ここは下山時にも沢から笹の道に這い上がるのに迷いやすくここを逃すとずっと沢身をたどらなくてはなりません。
帰りの林道では展望地でガスの晴れ間に向かいの尾根がのぞいてなかなか幻想的でした。

よみがえれボールドウィン:
長い林道を走って根利まで戻り、まだ時刻も早いので林野庁の林業機械化センターに寄ってみました。ここに昔の森林鉄道の機関車が修復展示されています。
その修復は「よみがえれボールドウィン実行委員会」の皆さんが手弁当でここまでやって来て作業しているということです。
ボールドウィンとはアメリカの蒸気機関車メーカーの名前だそうで、私も名前くらいは聞いたことがあります。
根利川を渡って左に折れると根利の中心地です。ここは一帯の林業の集積地だったためか古くからの旅館などもあり昔からの山間の中心地らしい風情があります。舗装道を進むとそのまま林業機械化センターの入口となります。森林鉄道の機関車は入ってすぐの左手にあります。
運のよいことにちょうど月に一度の作業日で、たくさんの会員が集まって修復作業の最中でした。いろいろ楽しい話を伺いながら見学させていただきました。
驚いたことに昭和40年代まで根利から今の倉見川林道付近を奥深くまで森林鉄道が走っていたそうです。今もその痕跡は切れ切れに残存しているそうで、実行委員の皆さんがそれらの調査をしているとのことでした。
http://natukusanosenro.way-nifty.com/blog/bw1.html


       ボールドウィン社製蒸気機関車


          協三製作所製ジーゼル機関車

2014-10-25
紅葉の時期に再訪:
林道の標高あたりがちょうど紅葉真っ盛りとなる10月下旬を狙って再訪です。
長い林道を走って皇海橋の駐車場に着いたときにはすでに満車に近い状態でした。ナンバーを見ると名古屋、仙台などこのあたりの山では見かけたこともない遠来の車も駐車していました。オオシラビソに覆われてこれ以上地味な山はないというくらいの皇海山ですから百名山でなければ百名山ハンターのみなさんがこの山を訪れることはほぼないでしょう。かつてのような静寂に包まれた皇海山は「百名山」が壊してしまったようです。
駐車場付近からいきなり紅葉の出迎えです。不動沢を徒渉してこの先しばらくはほぼカラマツの植林地内の笹の茂った中の登山道をたどります。黄に染まった針葉と青空の対比が鮮やかです。
不動沢全体カラマツが優勢ですが所々広葉樹林もあって赤や黄に彩られて普段と違って明るい雰囲気です。


     カラマツ林

    色鮮やかなモミジ

青銅剣
コメツガのコルからシラビソの頂上へ:
沢から離れコメツガの密生する急斜面を固定ロープを頼りに登り切ると不動沢コル。右の頭上に鋸山の鋭峰が聳えています。
目指す皇海山は左へここから約1時間ほどの頑張りです。かつては鬱蒼と茂った黒木(針葉樹)のために展望はほぼ皆無でしたが、近年はだいぶ樹林に歯抜けが目立ち展望がそこここで得られます。もちろんベースとしては樹林の山ですから全方位の展望は期待出来ませんが、南西の方向が大きく開け折からの快晴もあって遠く富士山や南アルプスの北岳や農鳥岳、八ヶ岳の赤岳、横岳、さらに遠く御嶽山の噴煙さえ見通せました。西の方向には浅間山を筆頭に北アルプスの蝶ヶ岳と常念岳、重なるように穂高岳と槍ヶ岳、さらに一旦四阿山に隠れて再び遙か薬師岳まで届く大展望、なんとも贅沢な岳望です。近景で言えば赤城山の存在感はさすが上州の名山の風情で、また浅間隠山が浅間山の手前に重なっているのがご愛敬でした。
コメツガからオオシラビソの森となりロープを頼りに急な登りをひと頑張りでやっと穏やかな尾根となり、皇海山の象徴の青銅剣を見るとやっと待望の頂上です。
(青銅剣は以前傾いてしまいましたが現在は鋳物の土台を添えてまっすぐ天を突いていました。)

     常念岳、蝶ヶ岳、槍ヶ岳、穂高岳

      富士山

秘密の展望地へ(ベテラン向き):
両毛国境 シゲト山、三俣山、釜五峰、国境平
 

一息入れてからすぐに縦走路(と言っても踏み跡さえ判然としません。)を10分ほど降りやや右方向の樹林の切れ目を目安に急斜面の藪を突いて薙の縁に出ると豪快な眺めが待っています。
見上げる高さに男体山、女峰山、太郎山、そして高々と東日本最高峰の日光白根山、そして遠く目をやれば尾瀬の燧岳、至仏山、その奥に平ヶ岳や越後三山、さらには巻機山など会越国境の山々が連なっています。
しかし、ここからの展望の凄さは遠望する山々だけではありません。眼下の壮絶とさえ言える松木沢とそれを形成する山々の豪快さはここからしか目にすることができません。眼前には松木沢から大きな山体を持ち上げている大平山と黒檜岳、松木沢を隔てた南側には中倉尾根のオロ山、沢入山から庚申山への連なり、そして釜五峰から国境平への両毛国境尾根、これらこのポイントでしか見ることのできない景観が展開されています。これらの山々は数十年前からずっとあこがれていたのにとうとう足を踏み入れることもなく終わった片想いの山です。しばしあまりの雄大さに呆然とさえしながらこの大景観を堪能しました。
展望地からの登り返しがまた難儀です。藪を突くことになりますが急斜面の登りですから倒木のないルートを探しながら這い上ることになります。
頂上に戻って昼食にしましたが、意外に西側の展望が得られることに気付きました。かつての鬱蒼とした静寂峰からはかなりかけ離れつつあるようです。
下山は紅葉を楽しみながら約2時間、登山口に下り立つ頃にはけっこう足に効いていてやはり楽々とは登らせてくれない皇海山でした。
(この展望地へのルートはベテランの方以外はちょっと危険だと思いますので一般ハイカーはくれぐれも踏み込まないようにして下さい。)
      男体山と黒檜岳、大平山

午後の陽に輝く紅葉:
ところで感動はこれでおしまいではありませんでした。林道走行はまた歓声の連続。ちょうど時期がぴったりの紅葉は午後の陽にいっそう映えて真っ赤な枝尾根と黒々とした頂上の稜線とが得も言われぬ景観を見せてくれました。
林道では往路にホンドギツネ、帰路にニホンザルの群れに遭いました。林道が通じてもなお野生豊かな山域です。

林道から見上げる重厚な皇海山

午後の陽に輝く支尾根と皇海山、鋸山
【収穫】(^_^;  2014-10-15  47片 50g
【便利帳】  トイレ:追貝側駐車場の上

目次